Calciphylaxis診断基準(案)
厚生労働省難治性疾患克服研究事業 「Calciphylaxisの診断・治療に関わる調査・研究」班
以下の臨床症状2項目と皮膚病理所見を満たす場合、または臨床症状3項目を満たす場合calciphylaxisと診断される。
【臨床症状】
- 慢性腎臓病で透析中、または糸球体濾過率15 ml/min以下の症例。
- 周囲に有痛性紫斑をともなう、2ヶ所以上の皮膚の有痛性難治性潰瘍。
- 体幹部、上腕、前腕、大腿、下腿、陰茎に発症する、周囲に有痛性紫斑をともなう皮膚の有痛性難治性潰瘍。
【皮膚病理所見】
皮膚生検は、可能な場合に実施する。臨床症状の2項目を満たす場合、他の疾患との鑑別困難な場合は、特に皮膚生検を行うことを推奨する。
特徴的な皮膚生検所見は下記の通りである。
皮膚の壊死、潰瘍形成とともに、皮下脂肪組織ないし真皮の小〜中動脈における、中膜、内弾性板側を中心とした石灰化、および、浮腫性内膜肥厚による内腔の同心円状狭窄所見を認める。
注:特に潰瘍、紫斑が極めて強い疼痛をともなうことは重要な症状である。
【参考所見】
下記除外診断のために、ガドリニウム造影剤使用歴調査と抗核抗体、クリオグロブリン定量、抗リン脂質抗体の各測定を行う。 Calciphylaxisに特異的な検査所見はない。
【除外診断】
- 糖尿病性壊疽
- ヘパリン起因性血小板減少症
(heparin-induced thrombocyto-penia: HIT)
にともなう皮膚壊死 - ワーファリン潰瘍
- 全身性皮膚硬化症
- Nephrogenic systemic fibrosis初期病変
- コレステロール塞栓
- 蜂窩織炎
- クリオグロブリン血症
- ハイドレアによる皮膚潰瘍
- 抗リン脂質抗体症候群
- 低温熱傷
- 壊死性筋膜炎
- 下肢静脈瘤にともなう潰瘍病変
- 異所性石灰化にともなう皮膚症状
【Calciphylaxisの疾患概念と診断基準の解説】
Calciphylaxis(カルシフィラキシス、カルシフィラキシー)あるいはcalcific uremic arteriolopathyは、慢性透析患者を中心として生じる多発性皮膚潰瘍を主病巣とする疾患であり、皮膚からの感染により敗血症を併発することが多く、その死亡率は50%を越えると報告されている。その概念は1962年Selyeらにより実験動物での知見から提唱され、カルシウム代謝異常による小血管の石灰化を指していたが、臨床の場では、頭記のような難治性皮膚潰瘍で、小血管石灰化が原因と考えられるものをcalciphylaxisとよんでいる。当初、副甲状腺ホルモンの分泌異常に対する何らかの反応性変化が根底にあるという考えから、カルシウム代謝異常によるanaphylaxis様反応としてcalciphylaxisと名付けられた。
諸外国ではその透析患者における発症率は1-4%と報告されているが、本邦での調査はこれまでに行われておらず、平成21年度厚生労働省難治性疾患克服研究事業として当研究班により初めて全国調査が行われ、これまでに約150例が全国透析施設で経験されていることが明らかとなった。しかし、これらの症例についての情報を収集して検討した結果、約半数は糖尿病性・動脈硬化性壊疽、または異所性石灰化に対する皮膚症状であると判断され、calciphylaxisと診断される症例は極めて少ないことが明らかとなった。一方、全国調査では、疾患についての認知度が極めて低いことも明らかとなり、実際の発症率はより高い可能性が考慮されている。
以上のような現状を踏まえて、当研究班では、疾患の認知度を高め、他疾患との鑑別を容易とすべく、診断基準案を配布し、その臨床の場における有用性を検証していく計画となった。また、診断基準案に加え、参考として、典型的な症例の皮膚所見、皮膚生検所見を例示した。
![]() |
![]() |
右下腿屈側 | 左下腿外側 |
皮膚肉眼所見
左下腿に黒色痂皮と黄色の壊死組織を中央部に付着する不整形の有痛性潰瘍を認め、硬結を触れる。潰瘍の周囲は紫斑を呈する。また左写真のように潰瘍のない部位にも下腿の一部に網状の有痛性紫斑を認める。
(東京女子医科大学東医療センター
田中 勝教授提供)
![]() |
![]() |
症例6 | 症例11 |
皮膚組織所見
いずれも典型的な小~中動脈における、中膜、内弾性板側を中心とした石灰化、および、浮腫性内膜肥厚による内腔の同心円状狭窄所見を認める。 (今回調査により収集された病理組織より。)